先日将棋の竜王戦にて、羽生善治さんが竜王位を奪取し竜王位通算七期となり、永世竜王の資格を得たことで永世七冠(竜王、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖)を達成するという偉業を成し遂げました。七冠同時制覇を達成した時からずっとファンだったので他人の偉業ながら嬉しさがこみ上げる出来事でした(任天堂64ソフトの最強羽生将棋を親に買ってもらい、L1のCPU相手に負けまくった頃を思い出します)。
竜王奪取後の記者会見で、羽生さんは「まだ将棋の本質を理解できていない」と、私からすると驚愕の発言がありました。
今後越える人は現れないであろう偉業(果たして今話題の天才中学生棋士 藤井聡太四段ですら超えられるかどうか…と私は勝手に思っている)を、現在もなお積み上げ続けている将棋界のレジェンドから出てくる発言とは思えないですが、その感覚こそが今もトップクラスで将棋を指し続けられるモチベーションになっているのかなと感じさせられました。
将棋の上達法から学ぶトレードの上達方法
さて、将棋の強い人に「将棋が強くなるには、どうしたらいいですか?」と聞くと、だいたい以下のような事柄を挙げる人が多いと思います:
・定跡(囲いや戦術も含む)の記憶と理解 : 序盤・中盤
・手筋(たたきの歩、たれ歩など)を学ぶ : 中盤・終盤
・詰将棋を解く : 終盤
・対局後の感想戦 : 全般
・プロの将棋を観戦する(プロによる解説つきだとなお良い) : 全般
序盤、中盤、終盤、スキがない将棋プレイヤーを目指すなら、上記の「勉強」が重要だと説かれます。
ここで注目すべきなのは「とにかくたくさん指す(対局数をこなす)」という人があまり見受けられないことです。
たくさん試合をこなす前に学ぶべき大事なこと
定跡を全く覚えてない状態(駒の動きと囲いや戦術の「形」だけを覚えた状態)で将棋を指すとどうなるでしょうか?私のようなヘタクソでも説明できそうな一例として、「5手爆弾」を挙げてみます。
「5手爆弾」は相掛かり定跡の序盤に出てくる定跡で、「(先手が)その手を指すと、どうやっても後手が有利になる」定跡として有名です(下図1)。
図1 「5手爆弾」として有名な5手目▲2四歩
(※将棋画像はKifu for Windows Ver6.60(http://kakinoki.o.oo7.jp/)を使用しています。)
この「5手爆弾」を知っている人(定跡を学んだ人)は、間違いなくこの手を指すことはないでしょう。▲2四歩でなく▲7八金と指すのが一般的です(下図2)。
図2 相掛かり定跡として基本的な5手目▲7八金
では、この5手爆弾を知らない人はどうなるでしょうか?そのまま指し続けた結果、ある局面に達したところで「失敗した!」と気付かされます(下図3)。
図3 失敗例1(銀損で先手不利)
しかし、「相手より先に仕掛けているのだから、この手(▲2四歩)が悪いわけがない!」と、また別の対局でも「5手爆弾」を試します(もちろん5手爆弾を何度も指している彼or彼女は「5手爆弾」という名称も存在も知らない)。
そしてまた失敗します(下図4)。でも、「なんか馬を作れたし今度はうまくいく!」とまた指します。そしてまた失敗します(下図5)。
図4 失敗例2(馬を作れているが銀損で先手不利)
図5 失敗例3(駒損は角が取られた後を考慮すると歩1枚だけだが、と金を2枚作られておりどう見ても先手不利)
「指摘」が先か「奇跡」が先か
おそらく、「それは5手爆弾と言って先手が不利になる手だよ」と誰かに指摘されるか、何らかの理由で気づくまで、一生この無駄な将棋を指し続けることでしょう。
「5手爆弾」でしくじり続ける過程で得られるものも多少なりともあるかもしれませんが、それは相掛かり定跡のもっと奥の展開について考えるより少ないことは想像に難くありません。
先に「5手爆弾は不利になる」ということに気付ければ良いですが、相手が弱すぎたがゆえに5手爆弾で逆に自分が有利になってしまうようなことがあった場合(下図6)、彼の中で「5手目2四歩は先手有利」説はより強固なものになってしまうかもしれません(いわゆる「悪しき成功体験」)。
図6 (悪しき)成功例(なぜか角得になった)
一旦こびりついてしまった観念は取り外すのに苦労するもので、よほど自分が信頼する、将棋の強い人から指摘されるまで彼の中では「5手目2四歩は電光石火の最強戦術!」と思い続ける…かもしれません。
間違った観念が取り払い難いのは相場も同じ
相場においてもこの「5手爆弾」に似た事例(無駄な失敗の繰り返し、悪しき成功体験が拍車をかけた間違った観念のこびりつき)があるかと思います。
「このパターンが出るとこのあとこうなる」と何らかの理由で思ってしまい、頭のなかに「知識」として蓄積され、それをもとに立てたトレードプランでトレードを行うも、それほど優位性がないパターンのためトレードする度に損失を被る…しかしたまに成功してしまうが故に「この手法は優位性がある!」と信じ込んで深みにはまる…
このようなプロセスは、多くの人が歩んだことがあると思いますし、現在進行系で歩んでいる人もいるかもしれません。
生半可な知識・スキルでトレードしたところで、大した結果は生み出せない
私が初めてFXに触れたときは典型的な「逆張り思考」であったため、ネットで知った移動平均線やストキャスティクスを見ながら(なんとなく)エントリーし、に順張り方向へ進むレートに損切りを余儀なくされ続けました。
損切りすればまだマシですが、塩漬けすることもしばしばあり、損失は時にものすごいものとなっていました。
300万あった証拠金が、ものの数ヶ月もしない内に数万になったのはいい思い出です(デモだったから良かったですが…)。
やがてさまざまな書籍やネットを通じてトレード手法を学び始め、現在に至っていますが、いまだに「自分が正しいと思っていることが実際は間違っている」ことはおそらくたくさんあるような気がします。ブルックス本やボルマン本でプライスアクションを学び、Forex Testerによる検証で収支がプラスになることが普通になった今でも間違いなくあるだろうなと思っています(誤った観念がリザルトに目に見えるレベルで露呈していないだけ)。
「頭の中にインプットされた観念(知識)が間違っていることに気づき、修正する」ことができれば楽ですが、果たしてどれが「間違って」いて、どれが「正しい」のかを分別するのが非常に難儀です。
誤った知識がトレード結果に反映されないようにするには、今この世で提唱されている様々な知識や意見の中で「比較的正しい、相場の本質を捉えた内容」に触れ、学び、理解したことだけをトレード手法に組み込むことだと思います。
将棋でいう「定跡本」のような書籍が、FX業界(しいては投資業界)にあるのか?
「定跡」は数多の棋士が数百年にわたって作り上げてきた道筋といえるもので、定跡とされているある局面における優劣に間違いはないといえると思います(ごく稀に新手が見つかることであらたな結論が誕生することがあるが、根本が変わるようなことはない)。
しかし、昨今において「相場の本質を捉えた内容」が書かれた書籍がどれだけあるでしょうか?
ここは特に私の主観ですが、大半の相場本は本質とは名ばかりの「ただの成功体験の一例」を印刷して売ってるだけなのではないか…?という疑念が浮かんでなりません。
「○○円が△△△万円になった」などというタイトルのついた本の大半は評価に値しないと感じるものが多く(軽く立ち読みしたうえでの感想)、読めば読むほど悪影響にしかならないと感じます(なぜなら書かれている手法の大半は「悪しき成功体験」に近いから)。
私はブルックス本(プライスアクショントレード入門とプライスアクションとローソク足の法則)、およびボルマン本(FX5分足スキャルピング)に関しては相場の本質を捉えていると感じる書籍の一部だと思っています(いろいろな通貨ペアにおいても記述通りのプライスアクションが確認できることなどから)。残念ながら私自身がまだ目に見える結果を出していないので、私の主張そのものが神通力を持ってないのは言うまでもありませんが…。
そんな本でも一部の購読者からは不評を買うのだから不思議なものです(大半は「翻訳がひどい」、「内容が理解できない」といった「読解力のなさのすり替え」と言いたくなる感想ばかりですが)。
関連書籍
将棋もFXも、上達のための本質は同じではないか?
以上長々と書きましたが、将棋から学ぶトレードスキルの上達方法は以下のような内容だと思っています:
・相場の本質(≒正しい知識)を学ぶこと
・知識に依存しないトレード(トレード手法)はほぼ意味をなさない≒負け続ける
・トレードをした時間(期間)とトレードスキルは相関しない
今回は「定跡」だけを例に将棋と相場の関連性を書きましたが、他の項目も間違いなく重要でかつ相場に関連の深い内容だと思います(特に感想戦)。
将棋にしろ、相場にしろ、扱うものが違うだけで本質は似ているのかなと思います。その「本質」とやらは何か…は羽生さんにも分からないというのだから、相当奥が深いものだと感じます(角交換を仕掛けたら必勝、くらい簡単ならいいのですが)。
私自身も(相場の)本質に近づけるよう今後も努力し続けたいと思います。
試合(リアルトレード)をこなすのは知識を入れてから
序盤で「将棋の上達のために対局数をこなすと答える上級者はほとんどいない」と書きましたが、もちろん「対局をこなしても無駄」という上級者もほとんどいないと思います(稀にいるかもしれない)。
ただ、そのステージに行く(対局をこなす)までにやるべきことがあるだろう(定跡、手筋の理解、詰将棋を解く)…ということです。駒の動きだけ知ってる状態で指したところで次に活かせることはなく、故に成長することができません(単に勝った負けたという結果だけが得られるだけ)。
相場でも一緒で、やるべきこと(勉強、バックテスト)をやらずにリアルトレードをしたところで「勝った、負けた」という結果がその時々で表れるだけで、継続的な勝利を手にすることは難しいでしょう(相場を張る人の9割は負ける、という格言からも無勉で勝つことの難しさと無謀さはすぐ分かるはず…)。
今のまま(生半可な知識しかない状態で)、これ以上トレードを続けても時間と金を失うだけだということに早く気づき、バックテストで圧倒的な結果が得られるまで検証して初めて相場で勝ち続けられるようになる…ということに早く気づけるかが相場で生き残るカギではないか…と私は思っています。
余談
プロレベルの棋士同士で「5手爆弾」を指すと、「後手がほんの少しだけ有利」となる程度の差しかないようです。それでもその「ほんの少し」が明暗を分けるかもしれないから、おそらく現代において指す棋士はいないのだと思います。
将棋は最終盤まで圧勝していても、たった一手で優劣が逆転するということがありますが(頓死)、相場でも最高のエントリーから最後の利確タイミングを誤ったがゆえに含み益を抱えたポジションが一瞬にして含み損になって損切り至る…という点で似てるなとふと思いました。
この記事の原稿を書き始めた時の最初のタイトルは「将棋と麻雀に学ぶトレードの上達方法と検証」というタイトルでしたが、思いの外将棋だけで長文になったため、タイトルを現在のものに変更しました。
またふと書きたくなったら続編で麻雀サイドを書きたいと思います。
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