アル・ブルックスさんの著作を日本語に訳した「プライスアクショントレード入門」や「プライスアクションとローソク足の法則」(パンローリング社 出版)を読み進めるにあたり、最初にぶつかる壁が「彼独自の用語の意味が良く分からないこと」だといわれています。
独自用語の中でも特に難解と言われているのが、高値1, 2, 3, 4(安値1, 2, 3, 4)であると言われています。にも関わらず、本文中に頻繁に出てくるため途中で読むのを諦める読者も多い、ということがAmazonサイト内レビューなどから見受けられます。
私自身は「ローソク足の法則」を読み進めるにあたり、高値1や安値2と言った意味をちゃんと理解しているかできてないのか分からないままゴリ押しで読み進めました。
理解しないまま読み通すことはできなくはないですが、彼がチャートを用いて説明しているポイントの3割~5割はスルーすることになるため、プライスアクションの真髄に触れることなく読み終えてしまったのではという念がありました。
なぜ「分かりにくい」のか?
「読者の読解力がないだけ」、「翻訳が不適切」という仮説は取り除いて、私自身が考える分かりにくい理由を列挙します。
図がない(少ない)
独自用語の解釈が難解である一番の理由は、「図示せず、文章だけで説明しているから」だと考えます。
「トレード入門」内にある高値1, 2, 3, 4の説明は以下の通りです(p.570、カッコ内文章は省略):
「高値1は、マーケットが上昇か横ばいのときに調整で高値が前の足よりも上にある足。もしそのあと高値を切り下げる足があれば、この調整の中で高値が前の足の高値を超えた足が高値2になる。高値3と高値4も同様。これにはさまざまな変形が在る。」
「マーケットが上昇か横ばい」は想像に難くないですが、「調整で高値が前の足よりも上にある足」という言葉はいろいろな解釈ができると思います。
例えば「前の足」というのは、「1本前の足」を指しているのか「直近における数本前(場合によっては十数本前の足)の高値の足」を指しているのかが明確でない、などです。
つまり、「誰が見ても同じような図がイメージできない」ため、あやふやな解釈の中読み進める(もしくはここで本を閉じる)ことになり、いろいろな場面で出てくる「高値1」に対して解釈にズレが生じて「よく分からなくなる」と感じてしまいます。
「トレード入門」のあとに発売された「ローソク足の法則」では(p.21)、上記説明の「上昇か横ばい」という文字が「ブルフラッグやトレーディングレンジ」と地味ながら変化しています(ここ以外も変わっています)。「横ばい=トレーディングレンジ」は大半が理解できると思いますが、「上昇=ブルフラッグ」は人によっては(少なくとも私にとっては)理解しがたい内容です。
私が「上昇」という言葉で描くチャートイメージは「ベアフラッグの中を上昇と押しを繰り返しながらレート右肩上がりに推移していく姿」であり、それはブルフラッグとは対極です。
図に示されたラベルの位置が曖昧
「トレード入門」の第4章(プルバック)内に高値1、2、3、4と安値1、2、3、4の詳細な記述があり(p.191~)、ここを読むと(私は)なんとか理解できたと感じています。丸々3ページに及ぶ文章が続いた後に図が表示されており、合わせてどの足が高値と安値なのかが記されています。
なお、「プライスアクショントレード入門」は英日翻訳された本ですが、その原書である「Reading Price Charts Bar by Bar: The Technical Analysis of Price Action for the Serious Trader」(Amazon)は公式サイト(Wiley.com)にて本に掲載されているチャートのダウンロードが可能です。
公式サイト中段の「Downloads」の「Chapter 4」をダウンロードした際に入手できるzipファイル内にある「figure0416.tif」が、上記「3ページに及ぶ文章が続いた後の図」に相当します(下図1)。
図1 figure0416.tif(プライスアクショントレード入門 p.195「図4.16 高値と安値のカウント」)
L1やH2などのラベルが書かれており、ラベルが示している足が高値1, 2, 3, 4であり、安値1, 2, 3, 4でもあるわけですが、理解していない状態で上図を見ると「どのラベルがどの足を指しているのか」が分かりにくいかと思います。
ちなみに、私なりに定義を解釈した上で各ラベルがどの足を指しているかを解読したのが下図2です。
図2 figure0416.tifのラベルとローソク足の関連付け
想定していた通りでしたでしょうか?
私は、少なくても一部のラベルにおいては思っていたところと異なる足を示していました。
「トレード入門」の図4.16のチャートは結果的に、ただでさえ理解しづらい定義をより難解にしてしまった一因になったのではないかと考えています。
仮想チャートで「高値1、2、3、4と安値1、2、3、4」を理解する
ブルックスさんには「現実にありもしないチャートを作るなんて言語道断だ(∵そこにプライスアクションは存在していないから)」と思われるかもしれませんが、理解しやすいように「仮のチャート」(下図3)でもって高値と安値がどの足かをおさらいしたいと思います。
図3 仮のチャート
各ローソク足に数字を付与していますが、それぞれの足についての高値、安値の解釈は以下のとおりです。
1
陽線、特になし。
2
陽線、特になし。
3
足1から形成していた上昇レッグであるが、この足で高値をつけて下落して上影陰線となった。
足2に対して高値は上回ったが、安値は下回らなかったので安値1にはならない。
4
足1~3の上昇レッグに対して1回目の下降レッグとなる陰線。
足3の安値を下回ったため、足4が「安値1」となる。
5
足4に対して安値を更新せず、また高値も更新しなかった孕み足の陽線。
1回目の下降レッグは足4の安値をもって終了したと考える。
6
2回目の下降レッグ。大陰線クライマックス足となった足。
足5の安値を下回ったため、足6が「安値2」となる。
(17/12/11修正):足5が足4の高値を上回らずに、足6が足5の安値を下回っているため「定義上」は安値2ではない。ただ足6からは2本目の下降レッグとして考えることはできる。
7
寄り付きとともに反発上昇した2バー・リバーサルの大陽線。2回目の下降レッグは足7の安値(少しだけ出た下ヒゲ)でもって終了したと考える。
6の足の高値を上回ったため、この足は「高値1」となる。
8
上昇レッグを形成する陽線。
9
陽線、特になし。
10
高値をつけてから下落し、9の足の安値を更新(陰線の場合、ローソク足内の推移は下図4のようだったと考える)。よってこの足が「安値1」。
図4 陰線十字足のレート推移
「安値3」でなく「安値1」としたのは、足4と足6の「安値1、安値2」が「高値切り下がり」の形であるのに対し「安値2と安値3」が「高値切り上がり」の形になっており、別物だと解釈したため(自論)。
この足の安値からの上昇が2回目の上昇レッグの冒頭。
なお、足10が陰線でなく陽線だった場合、「押してから上昇した」と解釈が変わることになるため、10の足が「高値2」となると考えられる(そして「安値1」でもあると考える)。
11
足10の高値を上回る陽線。よって、この足が「高値2」となる。
12
高値を上回った後に下落して陰線となった足。
安値は下回ってないので安値2ではない。
13
足12の安値を下回る大陰線。足10の安値からの上昇レッグは足12の高値をもって終了。
この足が「安値2」となる。
14
継続的な下落となる陰線。
15
大陰線。陰線が継続しているため、12の高値からの下落が下降レッグとして考えることができる。
もし足14が陰線でなく陽線だったとすると、足14の高値から始まる2回目の下降レッグで、足15は安値1と考えられる(この場合、1回目の下降レッグは足14の安値となる)。
分析(カウント結果)
以上の結果から、図3の仮チャート内にある高値と安値は下図5の通りになり、線で指し示しているローソク足が高値(1、2)と安値(1、2)の足となります。
図5 仮のチャートから高値(1、2)と安値(1、2)をカウントした結果(17/12/11修正)
実際のチャートで実践(ドル円、5分足)
仮のチャートで理解したら、今度は実際のチャート(下図6)で高値と安値の足を見分けてみます。
図6 USDJPY、5分足チャート
図6のチャートはUSDJPY(ドル円)の5分足で、2017年10月18日9:00~13:00(東ヨーロッパ時間、日本時間だと同日15:00~17:00)の範囲を分析しました(ブローカーはFXトレードフィナンシャルのデモ口座を使用)。
分析結果は下図7に示します。ラベルはブルックスさん同様「安値」がL、「高値」がHで、LやHのあとに何番目なのかの番号を付与しています(例:安値1=L1)。
図7 図6チャートの高値安値カウント結果(17/12/22修正)
分析結果より
分析したチャートは「上昇→レンジ→上昇」といういわゆる上昇トレンドにおける分析となっています。
カウントして分かることは、高値1(, 2, 3, 4)がいわゆる「押し目買い」に近いエントリーポイントであることです。逆に下降トレンドであれば、安値1(, 2, 3, 4)が「戻り売り」に近いエントリーポイントになるであろうことが想像できます。
ただ、気をつけないといけないのは、高値が「押し目買いポイント」になるのは上昇トレンドの相場である場合であり、トレーディンレンジや下降トレンドの場合はレンジ上限までの上昇もしくは「戻り」に匹敵するいわば調整のような動きでしかない点です。闇雲に「高値2が出たから買い」というものはないことは明白です。
「番号」の正確さはそれほど求められていない
ある足が「安値3」なのか、「安値1」と1から数え直すべきなのかという「番号の選択」に迷うべき箇所が多く、特にレンジ相場ではそもそも数えるべきなのか自体迷います。
重要視すべきなのは、「2回の試し=ツーレッグの上昇(下降)」のあとの安値(高値)であることや、トレンドの強さの方向を加味した上で高値1, 2, 3, 4(安値1, 2, 3, 4)のポイントがエントリーポイントとなり得るかを考えることだと考えます(上昇トレンドにおける安値2の後の高値だから買う…というような単純な取引はするべきではない)。
(17/12/11追記)上図5においても、足10の「高値2」は足7から始まる上昇レッグにおける2回目の上昇という意味では「高値2」かもしれませんが、調整の下落における1回目の反発(上昇)という意味においては「高値1」とも解釈できます。ただ、足13の安値2に関しては「上昇トレンド(レッグ)における2回目の安値更新の足」という意味で安値2が最も適切かと思います(=安値1ではない)。
また、ブルックスさんもその安値(高値)が1なのか2なのかという「名称は気にしなくてもよい」(プライスアクショントレード入門、p.197)と説明しています(チャートに度々表れる「高値1」の足を指摘する際に、本にいちいち『マーケットが上昇か横ばいのときに調整で高値が前の足よりも上にある足』と書くのは余りにも面倒なので(ページも増える)、「高値1」という名称を作ったという解釈、大事なのは名称よりもその足の持つ意味や効果)。
「ダウ理論」との比較
上昇トレンドにおける高値1、2、3、4は、いわゆる「ダウ理論」における「上昇継続と判断できるポイント」よりも早く、上昇レッグ(スイング)の開始を特定(推定)することが出来ると考えます。
ダウ理論的解釈による「直近(1本前かもしれないし、数本前かもしれない)高値を超えたら上昇トレンド継続判断」よりも、ブルックス的解釈による「1本前の高値を超えたときに高値カウント」のほうがより低いレートでの判断になる可能性が高いからです。
無論、早く判断できたからといって、そのポイントでロングポジションを持つことが必ずしも成功に繋がるとは限らないのでその点は注意が必要です。それはどちらの解釈でもいえることであり、そこで買うのであれば、それ以前のプライスアクションを見て判断する必要があるし、見送るのであればその後のプライスアクションを待つ必要があります。
さいごに
高値2や安値2をなんらかのエントリーポイントとして手法に組み込んでいくつもりがないにしても、「トレード入門」や「ローソク足の法則」の内容を理解するにあたって高値と安値のカウントに関する定義を理解することは必須だと思います。
理解して読み通した上で改めてチャートを眺めた時に、今までの独学で積み上げてきた(積み上がってしまった)観念が取り払われ、パラダイムシフトに相当する発見や気付きが起こって、トレードに活かせられればそれに超したことはないと思います。
ということで、私も改めて「トレード入門」と「ローソク足の法則」を読み直そうと思います。
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